前回大切さについて考えていただいた乗り心地のよい運転ですが、今回はその具体的な方法についてお話しします。
低ジャーク運転とは
「乗り心地のよい運転」という、ともすれば感覚的で人によってバラつきの出そうなテーマ。
実際、「乗り心地のよい運転をしなさい」と言われたら、どうしましょう?
アクセルやブレーキをあまり踏み込まない?
ハンドルをていねいに扱う?
…具体的にどうすれば良いのか、はっきりと、これだ!と言うのは少し難しいですよね。
そこで登場するのが、乗り心地の敵である「ジャーク」というものを抑える、「低ジャーク運転」です。
合言葉は、ダジャレで申し訳ございませんが、「ジャークは邪悪!」です。
以下では、ジャークについて、じっくりと見ていきますが、ごくごく簡単に言えば、「ペダルやハンドルをゆっくり動かせばいい」「停止の瞬間はブレーキ力をできる限りゼロに近づける」ということを言っています。
数式なども出てくるので、不慣れな方は太字の部分のあたりだけをナナメ読みしていただいてもかまいません。
逆に物理や数学に詳しい方にとっては、微分をわり算のように表現するなど厳密性を欠いていたり、数式や単位の書き方が変だったりするように感じられるかもしれません。
お詳しい方にはたいへん申し訳ございませんが、寛大なお心で、目をつぶっていただければ幸いです。
加速度のはなし
クルマの動いた距離\(x \mathrm{[m]}\)を、時間\(t \mathrm{[秒=s]}\)で微分したものが速度です(\(\frac{ \mathrm{d}x }{ \mathrm{d}t }=v \mathrm{[m/s]}\))。
なんとなく、「はじきの法則」なんて言うと思い出されるかもしれませんが、「きょり÷じかん=はやさ」でしたよね。アレです。
そしてドライバーならどなたでもご存知の通り、速度とは、スピードメーターに出る「○○km/h」の値ですよね。
(先ほどの数式では「1秒で何m進むか」の[m/s]でしたが、これを「1時間で何km進むか」に直したのが[km/h]です。)
では、その速度\(v \mathrm{[m/s]}\)をさらに微分したらどうなるのでしょうか…?
\[\frac{ \mathrm{d}v }{ \mathrm{d}t }(=\frac{ \mathrm{d^2}x }{ \mathrm{d}t^2 })=a \mathrm{[m/s/s]}\] 加速度\(a \mathrm{[m/s/s]}\)となります。
加速度とは、1秒で、何km/h変化するかを示した値です。
例えば、アクセルを踏み込んで加速している時、40km/hから60km/hまで4秒かけて加速したなら、加速度は\((60\mathrm{[km/h]}-40\mathrm{[km/h]})÷4\mathrm{[s]}=5\mathrm{[km/h/s]}\)となります。
ちなみに、用語は「加速」度ですが、ブレーキをかけて減速している場合の減速の度合いも、「加速度」と呼びます。
より運転者の感覚に近い言い方をすれば、加速度は「アクセル/ブレーキペダルを踏み込む量」(ペダルを何cm踏んだか)に対応します(厳密にはギアやエンジンブレーキなどの状態によって違いますが、まぁ、だいたいそんな感じ、ということで)。
この加速度が「7km/h/s」以下となるように運転すると、乗っている人の不快感が少ないようです。[自動車の制動時の安心感に関する研究, 田中2016](論文中では「0.2G」とありますので、これをkm/h/sに直した値をご紹介しています)
それはつまり、荷物にダメージを与えたりすることが少ないであろうということも考えられます。
なお、バスやタクシーなどを運転する際に必要な「二種免許」を取得する際の試験では、この加速度が「10.5km/h/s」を超えると減点の対象となります。[警察庁丁運発第152号 平成28年10月3日](実際の基準では「0.3G」とありますので、これをkm/h/sに直した値をご紹介しています)
子供会サークルのドライバーは、既に酔っている状態の子供や、満載の荷物を乗せて車を運転する場合があります。
そのため私は、1秒あたり7km/hを超えるような加減速は、絶対に避けてほしい、とサークルメンバーにお願いしていました。
そして分かりやすい目安として、余裕をもって「1秒あたり5km/hを超える加減速はしない」と覚えてもらっていました。
ジャークのはなし
ここからが本題、ついにジャークの登場です。
さて、さらに加速度\(a\mathrm{[m/s/s]}\)をもう1回時間\(t\mathrm{[s]}\)で微分すると…?
\[\frac{ \mathrm{d}a }{ \mathrm{d}t }(=\frac{ \mathrm{d^2}v }{ \mathrm{d}t^2 }=\frac{ \mathrm{d^3}x }{ \mathrm{d}t^3 })=j \mathrm{[m/s/s/s]}\] ジャーク\(j \mathrm{[m/s/s/s]}\)が求められます。
ジャークは、他に「躍度」とか「加加速度」とか呼ばれています。
「大きな躍度(加速度、力の急激な変化)は、生物に不快感を与えたり、機械装置に対して損傷を与えたりする」そうです。[誘眠効果 をもた らす機械的環境の研究, 木村2008]
ジャーク…、その名の通り邪悪ですね。
さて、この邪悪なジャークですが、要は「1秒あたりの加速度の変化」です。
ブレーキペダルをゆっくりグググっと踏み込んで、2秒かけて-5km/h/sの加速度とした場合、ジャークは\(-5\mathrm{[km/h/s]}÷2\mathrm{[s]}=-2.5\mathrm{[km/h/s/s]}\)です。
すなわちジャークは、運転者視点で言えば、「アクセル/ブレーキペダルを踏む(or離す)足の速さ」に相当します。
つまり秒速何cmでペダルを動かすか、といったところでしょうか。
察しの良い方は既にお気づきかもしれませんが、このジャークは、「車酔い」とたいへん密接な関係があります。
すなわち、あんしん運転の上では、このジャークを(安全上許される範囲で)極限まで減らすことが要求されるのです。
発進時、あなたはアクセルを必要な量まで一気に踏み込んでしまっていませんか?
減速時、あなたはブレーキを1秒足らずでポンと踏んでしまっていませんか?
もし当てはまるものがあれば、それらの運転操作を見直し、ペダルの操作はゆっくり行うことで、乗り心地は飛躍的に向上できます。
実際に体感していただくとわかるのですが、実は、乗り心地には、加速度よりも、ジャークの方が強く影響します。
多少、急加速や急ブレーキとなってしまっても、ジャークさえしっかり抑えられていれば、もしかしたら同乗者は急加減速に気づかないかもしれません。
停止の瞬間の「カックン」とジャークとの関係
よく「上手な人が運転すると、停止時にカックンと揺れない」とか、「停止寸前には、ブレーキを少し抜く」とかいう話を聞きますが…ここまで読んで下さった方には、これらの話の根拠が何だか、もうわかりますね。
ジャークです。
ブレーキを踏みこみ、そのまま停止まで持っていくと、たとえば-5km/h/sで減速していた場合、一瞬にして-5km/h/sが0km/h/sになるので、ジャークは\(-5\mathrm{[km/h/s]}-0\mathrm{[km/h/s]})÷0.0001\mathrm{[s]}=-50000\mathrm{[km/h/s/s]}\)のような感じになります(「一瞬」を、ここでは0.0001秒として表現しました)。
とてつもなく(絶対値の)大きな値ですね。
これが「カックン」の正体なのです。
一方、停止前にブレーキをゆるめ、加速度を-0.0001km/h/sくらいまで落とせれば、ジャークは\((-0.0001\mathrm{[km/h/s]}-0\mathrm{[km/h/s]})÷0.0001\mathrm{[s]}=-1\mathrm{[km/h/s/s]}\)まで低減させられます。これが、いわゆる「上手な人」の運転方法です。
しかし、一度このカラクリを理解してしまえば、初心者でも、カンタンに「上手な」運転ができますよね!
参考: 急ブレーキは禁止!?
では、緊急時にかける、いわゆる「急ブレーキ」は、加速度、ジャークとも大変大きいので、使ってはならないのでしょうか?
…実は、そんな疑問自体が、既にナンセンスなのです。
なぜかというと、急ブレーキは、危険予知で防げるものであるからです。
すなわち、防衛運転を学んだあんしん運転ドライバーは、「急ブレーキを使ってよいのか」なんてことを考える前に、まず「急ブレーキを使わなくて済む運転」を考えるべきなのです。
もちろん、本当にやむを得ない、緊急の際には、事故防止のために迷わず急ブレーキを踏むことが必要です。
危ないと思ったら、ちゅうちょなく踏んで下さい。
でも、まずはそんな場面に陥らないように努力していただきたいのです。
ハンドルについても同じ
以上では、アクセルやブレーキのペダルについて説明しましたが、ハンドルの取り扱いについても同じく、ジャークが乗り心地を悪くします。
ハンドルの角度が「加速度」、ハンドルを回す速さが「ジャーク」に対応するので、低ジャーク運転のためには、「ハンドルをゆっくり回す」ことが求められます。
そして、これを安全な運転のなかで実現するためには、ハンドルをゆっくり回しても間に合うような進路選択が必要になります。
以上、乗り心地のよい運転を、誰でもカンタンにできるように、「低ジャーク運転」についてご紹介しました。
今日からさっそく、ジャークの少ない、乗り心地のよい運転にチャレンジしてみてくださいね!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。